情報支援レスキュー隊 / IT DART (Disaster Assistance and Response Team)

災害対応とロボット

投稿者:hatayama - 2016/12/21

この記事は災害・防災Advent Calendar 2016の21日目の記事です.

IT DART理事/京大防災研の畑山です.
ゴジラの話題が続きましたが、今日はロボットの話です。
災害時にロボットは活躍しないんでしょうか?

ロボット研究と災害

私は、修士までは制御工学を専攻していて、ロボット制御の研究をしていました。修士を修了し、就職して10カ月後に発生した阪神・淡路大震災時では、仕事先の研究所で培ったGISの技術を使って、京大防災研グループとともに行政の支援活動(神戸市長田区役所で倒壊家屋解体撤去業務のための情報システムを開発・提供)を行っていましたが、そのときふと思いました。

被災地でロボットは活躍していないのか?

そこで、私の指導教員の松野文俊先生(当時、神戸大学、こんな人)に聞いてみたところ、残念ながら活躍していないとのことでした。その理由は、ロボット研究の歴史の浅さにあります。ロボットという言葉は、1920年に劇作家カレル・チャペックがチェコ語の強制労働「ロボータ」と、スロバキア語の労働者「ロボトニーク」を合わせてつくられ、1950年にSF作家アイザック・アシモフが「われはロボット」という小説の中で「ロボット工学三原則」を提唱したことが、ロボット研究者に影響を与えたと言われています。日本では、手塚治虫が1952年に鉄腕アトムを発表し、研究者に大きな影響を与えましたが、ロボット学会ができたのは、それから30年後の1983年になります。この期間には、ロボット研究の対象について大いに議論が行われたのですが、1959年の伊勢湾台風を境に1995年の阪神・淡路大震災が発生するまで、日本には大きな被害をもたらす災害が発生しませんでした(防災白書25年度版参照)。このため、災害対応のためのロボットはどのようなものであるかについての議論がなされておらず、結果、阪神・淡路大震災では、実際の災害現場に投入できるレベルのロボットは存在しませんでした。

ロボカップレスキュー、国際レスキューシステム研究機構(IRS)

阪神・淡路大震災を機に被災した神戸大学を中心に、災害対応のロボットの研究が開始されました。当初は、被災地の中を動き回ることができる機構の開発がメインで、ヘビ型ロボットやジャンピングロボットが提案されました。研究を加速するために、同一環境での環境での評価実験が必要との考えから、2001年にRoboCupRescue(ロボカップレスキュー)というプロジェクトが立ち上がりました(ロボカップについてはこちらまたはこちらを参照)。ロボカップレスキューはシミュレーションリーグと実機リーグがあますが、シミュレーションリーグはAI研究者、実機リーグはロボット研究者が国際の舞台でしのぎを削り、技術の研鑽に努めています。2002年には、日本のロボット研究者を中心に国際レスキューシステム研究機構(IRS)が発足し、同年から5年間で行われた文科省大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)では、様々なレスキューロボットが開発されました。このプロジェクトではロボットのミッションとして、人を直接救助することに加え、レスキュー活動のための情報収集に重点が置かれることになり、UAV(無人航空機、ドローン)の技術なども生み出されています(中越地震時に山古志村でUAVを用いた調査を実施)。IRSは、国際ロボット救助隊を目指しており、前田建設ファンタジー営業部の「Project04:世界初、民間国際ロボット救助隊を創ろう編」でも取り上げられています(この企画シリーズ、Project01:マジンガーZ編、Project02:銀河鉄道999編、Project05:機動戦士ガンダム編とロボットアニメ好きにはたまらないラインナップです)。

東日本大震災でのロボットの活躍

これらの研究成果の一部は2006年から5年計画で開始された戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクトに引き継がれ、「被災建造物内移動RTシステム」(RT:Robot Technology)としてさらに研究がすすめられました。私が参加したグループは2008年にスクリーニングされてしまいましたが、勝ち残った東北大のグループの成果の一つが、福島第一原発に投入されたクインス (Quince)です。当初のミッションが地下街での情報収集となっており、放射能耐性などの試験がなされていなかったため、投入時期こそiRobotに先を譲りましたが、真にロボットの有用性を示したのは、世界一の瓦礫走破性を持つこのクインスであると言われています。東日本大震災では、これ以外にもロボットが少しだけ活躍しています。我々のグループは、南三陸町などで水中の状況を観測し、安全性を確認したうえでのダイバー投入に寄与しています。東日本大震災でのこれらの経験を経て、想定される南海トラフ巨大地震や首都直下地震でのロボットのさらなる活躍にご期待ください。