情報支援レスキュー隊 / IT DART (Disaster Assistance and Response Team)

AIは防災や災害支援に役に立つのか

投稿者:MurakamiAkiko - 2016/12/11

IT DART理事の村上です。本業はIBMという会社でWatsonという製品の開発リーダーをしています。今年の6月までは人工知能学会というAIの学会で理事をしていた研究者でもあります。

人工知能って何?

Watsonは人工知能/AIという表現を使わずにCognitive Computingと言っていますが、AIと技術的には近しいものです。AIって聞くと、機械で人間を作ろうとしているであるとか、人間の仕事が奪われる!といった話から、何か人間のコントロールできないものと考えている方が多いようです。しかし、現在のAIは、残念ながらまだ人間を完璧に置き換えるまでには至っていません。

現在、AIと呼ばれている技術は、人が何か(意思決定など)をする際に、それを手助けするものとして使われていることが多いです。例えば、自分の視聴履歴に基づいたオススメの映画を出すシステムも、大きく言えばAIの一つです。テキストや画像の検索も、皆さん便利に使っていますよね。

 

災害と人工知能

では、現在のAIの技術は、防災や災害の対応に役立っているのでしょうか。答えとしては、yesです。

例えば、地震が起きた時に、津波警報や注意報が出たり、津波の心配はありませんという発表ができるのも、データを用いたシミュレーションというAIの技術の一つによるものです。緊急地震速報も同じような技術が役に立っています。これらは、二次災害を減らすという意味で減災に役立っている例といえるでしょう。

一方で、災害の対応の現場ではAIは活躍しているでしょうか?残念ながらこちらは(私の感覚では)まだまだといったところです。発災直後はネットどころか電気すら確保されているとは限りません。そんな中、AIが必要としてる「データ」がデジタル化されておらず、現地に行ってアナログで回収しないと取得できない場合がほとんどだからです。

そんな中、少ないデータからこれもまたAIの技術を使って補完して分析を行おうという試みがなされています。例えば、ネットに接続された車のナビから、実際に通行した道を取得し、被災地への通行手段の確保に役立つ「通行実績マップ」というものがあります。また、福島原発の事故の際には、測定された一部の放射線情報から測定されていない地域の放射線量を推定したり、また風の向きから今後の放射線量を推定したりなども行われました。

また、物資の分配や避難所運営にもAIを活用しようという試みがなされています。現在ある物資を把握し、今から配送される物資を効率的に配布するための最適解を求めたり、避難所にいる方達の健康状態を把握し必要とされる医療を提供する、などです。しかし、先ほど述べたように被災地での情報収集がまだまだ人手に頼っており、うまくいっているとは限りません。例えば、物資の在庫は手書きのメモでなされていたり、避難所の方の健康状態のヒヤリングも紙で保管されていたり、といったものです。これでは、分析・活用しようにも技術の活躍する場がありません。

 

AI技術が災害対応で活躍するために

もちろん、発災直後の命が大事な時に「記録を取れ」「電子化しろ」ということは言えません。また、被災された現地の方や、必要とされる活動をされている方にそれをお願いするのも難しいと思います。

そのために、AIそのものではなく、データを自然に取得することのできるシステムというのも考える必要があります。最近では、スマートフォンやタブレットが日常化してきたので、現地で情報を紙ではなくタブレットで入力してくれる日も近いかもしれません。また、電気やネットの都合上、やはりアナログでしか取得できなかったとしても、その画像情報さえ手に入れば現地ではない人がデータ化をするということもできるでしょう。それから、情報を取得する目的だけのシステムに頼らず、例えばソーシャルなどのデータから必要なデータだけを取得するなどということも可能になるかもしれません。

もしみなさんが被災地でのボランティアなどをされていたら、情報を他の人が使える形にする、ということを少しだけで心がけてもらえると良いなと思っています。そして、ボランティアしてみたいけど現地に行くのは難しい、という方は、リモートでできる「情報ボランティア」に参加してみてはいかがでしょうか。IT DARTではそういった活動をしたい方に対するサポートもしていこうと考えています。ぜひ、この機会に隊員登録をお願いします!