情報支援レスキュー隊 / IT DART (Disaster Assistance and Response Team)

災害時の情報システム

投稿者:hatayama - 2016/12/06

IT DART理事/京大防災研の畑山です.
災害時に使えるコンピュータシステムとはどんなものなのかについて,私の意見を書きます.

災害対応計画と人材・資源の枯渇

災害対応の多くを担う都道府県庁,市役所,町・村役場では,災害対策基本法に位置づけられている地域防災計画が策定されており,その中には災害対応計画が存在します.この計画に基づいた対応を行うために事前に(かなりのコストをかけて)情報システムが導入されている場合がありますが,大規模な災害時に,このような事前に導入された情報システムが稼働しなかったことが指摘されることがあります.なぜ,大災害という想定されているはずの利用現場で稼働しないことになったりするのでしょうか?この理由は,この情報システムがうまく稼働し,対応効率をあげたときのことを考えると想像がつきます.稼働する場合のほとんどが,システム運用のためのハードウエアや環境と,情報システムを運営する人員(多くの場合は特定の人に運営が全面的に任されています)が十分に確保された場合なのです.しかし,大災害時には,これらが十分に使えなくなります.サーバやインタフェースとなる機器(PCやタブレットなど)が損傷したり,頼りにしていた情報システムに精通する人が,被災している可能性もあります.このように人材・資源が枯渇しているとき,情報システムはうまく稼働できないと考えられます.

人材・資源の枯渇している中で稼働するためには

では,大災害でも稼働する情報システムはどのように構築したらいいのでしょう.ハードウエアの損傷のリスクを下げるためには,二つの方法があると考えています.第1は,クラウドを使うことです.通信環境が確保されないことも想定してオンプレミスの部分も残したハイブリッド型がお勧めでしょう.もう一つはPC単体での処理で作業を賄えるようにしてしまい,その時,使える複数台のPCで作業分担とデータ共有をマニュアルで行っていく方法です.もし,すべてのPCが損傷し使えない場合はシステムごと持ち込むことで対応します.これに対して,人材の枯渇リスクを下げる方法は,現地での情報システムを活用を特定の人に任せないようにする方法が考えられます.これを実現するためには,事前に導入する情報システムは,平常業務に直結しておくことが求められます.災害時の対応業務は平常時の住民サービスに似ているものも多く,工夫すれば平常時/災害時の双方でつかえるシステムの構築は可能です.このように十分な準備ができれいれば,厳しい環境の中でも活用できる可能性はあると考えています.

そうはいっても事前に準備するのは難しい

しかし,現実には上記のような理想的な準備をすることは難しく,災害が発生してから何とかすることが求められます.ただ,事後に相談がもちかけられた際に,事前から作りこんであるパッケージを投入するのは危険が伴います.なぜなら,事前に作りこんだシステムでは資源や人材の枯渇した状況での利用を想定して作られていないからです.私は,阪神・淡路大震災から東日本大震災まで,このような環境下で自治体に情報システムを提供し,支援活動を行ってきました.また,熊本地震ではIT DARTとして熊本県庁の支援物資管理システムを提供しました.これの活動では,災害発生後にニーズ分析だけでなく,システム運用体制についても具体的に確認ながら,システム設計を行いサービスの提供をしています.災害現場では利用者のITスキルが,提供者側が想定するレベルに達していないことがほとんどです(ITスキルの高い人が,情報システムを利用する仕事をするとは限りません).災害対応時に彼らのITスキルをあげるような時間は取れませんので,現状で一番パフォーマンスをあげられるシステムを提案することが災害時に稼働する情報システムということになります.