今日までそして明日から
情報支援という言葉は言い得て妙だ。誰のために何の情報をどのような支援に用いるかは状況によって異なる。
我々情報支援レスキュー隊はそのようなワイルドカード的な役割を社会において担おうとしている。何をしてもこの目的に沿うものになるし、何をしてもこの崇高な目的には到底達し得ない。
3年前にIT×災害コミュニティというものを立ち上げた。Hack For JapanというIT開発者のコミュニティでの活動に限界を感じ、同じくITで復興支援や防災/減災を考える個人や団体を集めてはどうだろうと思ったことから始まったコミュニティであるが、その変わらぬ精神は「ゆるく繋がる」ということだ。これは東日本大震災からしばらくたったころに、岩手県立大学の先生からいただいた「いざというときに連絡取りあえるように、普段は定期的に呑み会をするだけでも意味があるんですよ」という言葉からヒントを得た。
情報支援レスキュー隊(IT DART)はこのIT×災害コミュニティから派生したプロジェクトだ。それ故、IT×災害コミュニティの会議と同じく、無理なく、興味を持つ人が集まって活動を続けていけば良いという側面はある。ただ、一方で、発災時にITでの支援を行うというミッションから考えると、いざというときに行動に移れる人をどれだけ揃えておけるかがキーとなる。
今回、12/1からの25日間情報発信をし続けるというアドベントカレンダーを始めたのも、少しでも我々の活動をIT技術者に届けたいという思いから始まった。ここ数年、IT技術者の間で広まっているアドベントカレンダーというお祭りに近いイベントに乗ることで、少しでも恩恵を受ければという考えがあった。
技術者にとってシャイニーな技術を取り上げているわけでもない。我々の話を読むことで技術を習得できるわけでもない。ただ、震災から4年も過ぎているのに愚直に復興や防災/減災を考え続けている我々の想いを少しでも伝えられ、何かが変えられればという想いでこのアドベントカレンダーを書いた。
You may say I’m a dreamer but I’m not the only one
当初、このIT DARTのアドベントカレンダーは理事や運営委員で25日全部を埋めようと思っていた。だが、書き始めてから声をかければ、今までの活動、たとえば、今までのハッカソンに参加した人やメンバーの所属する会社のイベントなどで知りあった人に声をかけることで、新しい仲間にも執筆してもらうことができた。
考えてみると、我々は自分たちの活動を多くの人に伝え、賛同してもらい、さらには参加してもらうという努力を怠っていたかもしれない。今回のアドベントカレンダーは今後我々の活動をしらしめるという意味でも貴重なコンテンツとなるが、それに加えて、現時点においても興味を持ちうる可能性のある人にアプローチするに際して使える武器となった。
I hope someday you’ll join us
防災や減災に関わる人は、そうは言っても、人々の関心が薄れていることは知っている。ただ、知る限り、きちんとした数値データでその関心の薄れを示したものはそう多くない。なので、昨日の村上理事による学会の論文データによる可視化は貴重だ。学会のデータだけがすべてではないが、研究におけるトレンドは社会全体のトレンドに繋がる。
日本は約10年に1度は大きな自然災害に襲われるというのが過去からの教訓である。来なければ来ないにこしたことはないが、我々は来るという前提でそれに備えておくべきだろう。ではそのような状況で、社会の関心はどうなっているというと、昨日の研究トレンドと大きく変わることは無い。
これはGoogleトレンドという検索トレンドを公開するGoogleのサービスで「災害」(青)と「防災」(赤)の検索トレンドデータを年次で示したものだ。2011年の震災直後こそは「災害」と「防災」で差が出たが、その後はほぼ同期している。全体のトレンドとしてはやや下がり傾向というところか。世間の感覚も同じだろう。
風化っていう言葉を使ったら負けかなって思ってる
人々の興味が沸かなくなっているのは事実かもしれない。例えば、12/1から昨日までの24日間のこのブログへのトラフィックデータは次のような状況だ。
25日間で1,000セッションをどう評価するかは人それぞれであるが、そこらのアフィリエイトサイトでも桁が違うくらいはトラフィックを集められる。そう考えると、やはりあまりアクセスされていないことはちゃんと理解しないといけない。
良く読まれた記事のランキングは以下に掲示する。
- 311からエンジニアが学んだこと
- GitHubやSlackをエンジニア以外のチームに導入してみた
- (アドベントカレンダー冒頭の)IT DART アドベントカレンダー2015
- Twitterと災害 前編
- 開発で災害復興、防災・減災を支援したいんだけど、何からして良いかわからないというエンジニアが見るべきサイトやコミュニティ
比較的技術者好みの記事にアクセスが集まっていることがわかる。予想の範囲内であるが、これらでさえたかだか100程度のアクセスしか集めていない。開発者にさえ重要な情報が届いていないことがわかる。世間の言うダイバーシティとはだいぶ異なるが、同質性からの脱皮が組織が大きくなる大事なステップだ。来年以降はもっと他者を巻き込むしかけをしていけたらと思う。
Moving On
他の技術者を集めると言いながら、つい最近まで、自分の友人を誘うことにためらいがあったように思う。どこかで普通の人は誘いにくいと思ったり、変人と思われるかもしれない不安があった。だが、話してみれば我々の想像以上の技術者が興味を持っていることがわかった。12/23のエントリーを書いてくれた藤田氏などは知り合って間もないにも関わらず、アドベントカレンダーの執筆を快諾いただけた。
IT支援はベタな技術者による支援だけではない。だが、技術者がいくらいても余ってしまいすることが無いという状況にはしばらくは決してならない。ならば、止められるまで技術者に声をかけまくろう。
藤田氏の提唱する311に向けてのアドベントカレンダー(と呼んで良いのかはわからないが)は面白い試みだ。
それ以外にも、通称デブサミと呼ばれる翔泳社主催のDevelopers Summitにても代表理事の及川(筆者)がセッションを持つ。実は昨年の「災害×クラウド」というセッションも人数は少ないまでも参加者には大変好評であった。今回は「プロフェッショナルとしてのPivot 〜私がスタートアップに身を投じる理由とCivicTech活動が教えてくれたこと〜」と題して、防災・減災活動という変わらない部分と転職という変化について語ってみる予定だ。
今回のIT DARTのアドベントカレンダーを見て、我々の活動に興味をもったならば、このようなイベントへの参加を考えていただければ望外の喜びだ。
タイトルの「今日までそして明日から」は古い世代なら知っている吉田拓郎のフォークソングだ。先日、終了を発表した女川さいがいFMの開局時、一番最初にかかった歌だ。私が昨年末お邪魔した際に、それを知らずに同じ歌をリクエストしてリスナーに驚かれた。
高い防波堤が敷設され、街並みは変わろうとも変わらないものもある。
我々も変わらぬ心を持ちながらも、しっかりと前に進んでいきたいと思う。