情報支援レスキュー隊 / IT DART (Disaster Assistance and Response Team)

関東・東北豪雨水害での活動を振り返って(後編)

投稿者:MiyagawaShoko - 2015/12/13

みなさん、こんにちは。IT DART代表理事の宮川です。くどいようですが、好きな言語はPrologとLISPです。

今日のIT DART Advent Calendarは、「関東・東北豪雨水害での活動を振り返って(前編)」につづいて、12/10に開催された平成27年9月関東・東北豪雨災害報告会の模様をお届けします。

 

現地の活動の際には、何よりも被災者への配慮を

後半は、IT DART理事でIBMの村上明子さんの報告から始まります。村上さんは、9/13に取出さん、上村さんと一緒に守谷市、常総市にニーズ調査に入りました。守谷市でのWiMAXルータの設置、暫定ホームページの作成の支援活動については、前回取出さんから報告があったとおりです。その後チームは自転車で守谷市から常総市に移動します。途中、浸水地域に関する情報を地元の方から聞きながら、通行実績のある土手沿いの道路を使って常総市役所に到着しました。

常総市役所は、守谷市役所と異なり、IT DARTのメンバーが市の職員へのコネクションを持っていなかったこと、また、十分なヒアリングはできませんでした。常総市役所は1階が浸水したため、写真のように床をはがした状態になっています。入り口付近では、無料の充電コーナーができていて、多くの方が携帯電話などの充電をしていました。市役所2階には情報共有のための掲示板があり、どの地域の水が引いた、等の情報が掲示されていました。常総市では浸水のため固定電話がほぼ使えない状態となり、市への問い合わせも携帯電話1つだけでやっているとのこと。東京から近郊であっても、通信インフラがダウンすることで、被災地域は容易に孤立してしまうリスクがあることがわかります。

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常総市の報告に引き続き、村上さんからはIT DARTとして情報収集をするに当たって注意すべき点についての報告がありました。

・ビブスを着けていることは重要
現地での善意の活動であっても、タイミングによっては不審者とみられてしまうこともあります。実際、常総市では被災した家屋から家財などの盗難があったそうです。ボランティアであることがわかるもの、所属がわかるものを身につけておくのは、自分の身を守るためだけでなく、住民の方にも安心感をあたえることにつながります。IT DARTのビブスには「情報支援」と大きく書いてあります。このため、住民から「何か情報を持っているの?」と聞かれることがあったそうです。

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・写真を撮るときはスマホではなくデジカメで
スマートフォンで写真を撮っていた際に、遊びや物見遊山に見えるのか、なんどか住民から注意を受けたそうです。できれば「記録班」の腕章があるといいのでは、とのこと。これとは別に、撮った写真の取り扱いについても検討しなければいけません。不用意に個人や自宅の状況が公開されないようになどの配慮が必要になります。言うまでも無いことですが、ビブスを着けていれば良い、プライバシーが守られれば良い、という話ではなく、被災した方の心情に配慮した行動が基本となります。

・ヒアリングは2人一組
ヒアリングをする際には、聞く人と記録する人の2人一組が良いとのこと。特に、状況をすぐに広報チームに伝えて対応を検討するようなケースでは、ヒアリングに対応してくださる方を待たせず、また、すぐに後方チームに情報を流せる2人一組体制がよかったとのことでした。

・通信手段は二重化・三重化
今回のニーズ調査では、後方チームとの通信に主にSlackと呼ばれるチャットツールを使いました。記録が残るので便利に活用できるのですが、一方で通信状況が悪い場合にはメッセージが消えてしまうという欠点もあります。LINEであれば、通信が復活したときにメッセージが再送されるので、必要なときにはLINEに切り替えるなど、通信アプリについても複数手段を持っておくのが良いということでした。

 

うまく行ったからよかったものの、後方支援もきちんと準備を。

続いて、代表理事で最近Incrementsへの電撃移籍が話題になった及川卓也さん、そして同じく代表理事の私、宮川祥子から、9/13の守谷市・常総市ニーズ調査のアレンジと後方支援についての報告です。

及川さんからは技術面での支援と課題についての報告です。
現地の被害状況をFBにアップしていた方がいたので、その情報をGoogle Mapsに落とし込んでいきました。今回はOpen Street Mapは使いませんでしたが、その理由は単に使い慣れていなかったから。OSMの人が後方支援に入っていたら、また選択は違ったかもしれません。その時々で使える人が使えるものを活用して、、、というのがIT DARTの現状です、地図情報は災害時には命綱になりますので、最適なものが使えるよう、メンバーも研鑽が必要です。

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情報をマップに落とし込んでいく際に、わからない地名が出てきたとのこと。地元の人が通称で呼んでいる道の名前や「国道何号線の○○というお店のある交差点」など、Google Mapsで得られない情報があり、確認に時間を要したそうです。後方支援で、特に地図情報を取り扱う際には、被災地域の地理に詳しい人とつながりを持っておくのがよさそうです。被災した方は大変な状況にあるので、その地域の出身の方に入っていただけると良いのでしょう。

守谷市のウェブサイト作成については、前回の取出さんからの報告にもあったとおり、結局行政ネットワークが程なく復旧したので、我々が作ったサイトは使われませんでした。しかし、潜在的には大きなニーズがあるので、災害発生時には、被災したであろう自治体の暫定ホームページをとにかく作ってストックしておくというオペレーションを組み込んでも良いのでは、という提案がなされました。自治体のどのページがアクセスできないかについての情報を自動で収集するような仕組みもあると便利です。今回のホームページ作成は、ドメインをどこにするかが課題でしたが、守谷市の職員がJimdoのサイトを使ったことがあるということでしたので、後々のメンテナンス性を考えてJimdoを採用しました。作業開始が10:05、「できた」の報告が10:36という、スピード構築でした。

 

宮川からは、9/13現地調査のオペレーション支援についての報告です。

9/13に調査に行くことが決まったのは、11日夜です。その時点で、上村さんをリーダーとして、取出さん、村上さんの3名で行くことが決まりました。

そこから、出動に必要な準備のリストアップを開始。持ち物リストは、途中で足したモノもありますが、最終的には下記のようになりました。
・IT DARTビブス
・IT DART名刺
・ヘルメット(オプション)
・踏み抜き防止インソール+はき慣れた運動靴
・軍手
・グローブ(とげを通さないもの。革、ゴム等)
・レインウェア
・メモ帳・ペン(防水仕様が望ましい)
・ジップロック
・記録用デバイス(スマホで可)+モバイルバッテリー
・ウェットティッシュ
・ファーストエイドキット
・マスク
・自分の食料・水
・携帯用トイレ
・保護ゴーグル(乾いてきたら)
・虫除け・虫刺されの薬(蚊が多い)

このほかに、後方支援チームは下記の準備を行いました。
・社会福祉協議会のボランティア保険への加入の確認
・集合時間と場所の確認
・連絡先携帯電話番号の確認
・ヒアリングシートの作成

ヒアリングシートは、現地で引き出せるよう、コンビニのプリントサービスに登録しました。後方支援チームが情報をコンビニのプリントサービスのネットで登録し、現地チームが必要なときに手近なコンビニでそれを引き出すというやり方は、今後IT DARTの標準オペレーションとして固めていく予定です。

当日は、活動開始前、中間(お昼休憩)、活動終了後に現地と後方支援チームをつないで簡単なミーティングを行うこととしました。使ったツールはHangoutです。朝のミーティングでは一日の予定、移動手段、撤収時刻、安全情報について確認しました。お昼休憩の後のミーティングでは午前中のまとめと午後の予定、最後のミーティングは17:30でした。それぞれ、10分程度の短いミーティングですが、問題となりそうなことを確認することと、現地チームと後方支援チームで状況認識が一致していることを確認できたのはよかったです。

宮川は、この日一日後方支援でPCの前に座って、ひたすらクロノロ(※)を作っていました。slackでのコミュニケーションをまとめていくという単調な作業ですが、後々(こうやって振り返りの会のための資料作成など)当日のことを思い出す必要があるときには強力な資料になります。クロノロは初めての経験で試行錯誤でしたが、とにかく起きたことを記録に残しておくと言うことが重要だということがわかりました。

反省点としては、実は11日に出動が決まりましたが、後方支援体制を作るのをすっかり忘れていて、何とか形になったのは13日当日の朝でした。出動が決まった時点で後方支援チームの構築をしなければなりません。また、IT DARTのメンバーでも独自の活動をしていたり、IT DARTと交流のある団体もそれぞれ活動に入っていましたが、現地のチームの動きをサポートしたりタイミング良く情報提供するために、後方支援チームはそういった横連携もやっておけばよかったなあと感じています。

 

情報発信においても、やはり継続は力なり

最後に登場したのは、仙台からリモート参加、代表理事で東北大学所属、DMATのメンバーでもある佐藤大さんです。

佐藤さんがFacebookに状況共有のためのグループを立ち上げたのは9/10の8:34。気象情報や被害状況、支援のためのボランティアバスの一覧などの情報提供を行いました。同時に、災害ボランティアセンターや避難所が各被災地域のどこにあるかのマップや、それぞれの災害ボランティアセンターがどのような内容のボランティアを募集しているかについての情報を収集して、11月まで更新を続けました。

Facebookグループには、12/10現在で694名のメンバーが登録し、700前後のスレッドが立ったそうです。中には、行政への不満などを書き込む方もいらしたそうですが、他の参加者から「不満もあるだろうけれども、行政もみんなもがんばっているのだから・・・」といったとりなしのメッセージが書き込まれるなど、全体的に良いムードで情報共有ができたそうです。こういった、グループの雰囲気をうまくもっていくことは時に難しいこともありますが、佐藤さんの継続定な情報提供もその雰囲気作りに大きく貢献したのだと思います。

佐藤さんはIT DARTのツイッターの「中の人」でもありますが、今回の豪雨災害に関しての最初のつぶやきは9/8 20:24の浜松で浸水被害発生に関する情報でした。その後も、避難勧告、ボランティア募集一覧、活動レポートなどの報告を11/16まで行っています。

ところで、あまり考えたくないことですが、災害時にはそれに便乗して被災者からお金をだまし取る詐欺も横行します。IT DARTでは、現地で活動する支援団体が広報できるよう、詐欺注意チラシを作成して、コンビニでプリントアウトできるように準備し、Facebookやtwitterで広報を行いました。こういった支援は、ITのプロフェッショナルから見ればとても単純なことなのですが、こういった支援で現地で活動する団体とつながりを作っておくことが、それ以降のより踏み込んだ、専門的なIT支援につながっていくのだと思います。

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佐藤さんはIT DARTのなかでも、継続的な情報収集と発信を得意分野にしています。全般的に短期決戦型のメンバーが多い中で、佐藤さんのような長期戦に強いタイプは本当に貴重です。これからもよろしくお願いします(笑)。

 

おわりに

12/10に開催された報告会の内容をかけあしでレポートしました。

この後、今後の活動のための様々な議論が行われて、具体的なメニューの作成や、こんなことをしたら良いのではないかというアイデアもたくさん交換されました。ひとつひとつ、実現していこうと思います。これからもみなさんにblog等を通じて報告できればと思いますし、活動に興味がある方はぜひIT DARTのイベントにお気軽にご参加ください。

 

※クロノロとは、クロノロジーの略で、出来事を時系列に並べた記録のことです。災害時には、この記録が、救援や支援物資の配分のための意思決定を助ける基礎データになります。